不思議なことに合格でき、普通の女子高生とはかけ離れた高校生活になった。
普通のアイドルとは違うグループになってしまったけど、とにかく楽しかった。
そこらの学生より忙しくて楽しくてかけがえのない時間を過ごした。
最期はグループで大人たちの盤上の駒として殺し合わされたわけだけど、愛する相棒と仲間へ呼び掛けたことも平手と戦ったことも私の人生に悔いはない。
激しい痛みと大出血で意識が遠のく中、頭に響く声量で呼ばれる。
??「由依!!!!」
落ちる寸前に意識が覚醒し目を開ける。
小林「あ……、茜…………!」
汗をかき涙をポロポロ流した守屋がいた。
深手を見るや、何をすればよいか分からずに慌てふためく。
守屋「ああッ!?」
傷口に手を抑えるも、血は止まらない。
病院もない。知識もない。手の施しようがない。
もう片方の手で小林の手を握りしめる。
前編→【良スレ】欅坂46・守屋茜「バトルロワイアル?」【前編】
守屋「あああ!!! どうじよう!!!どうすればぁあぁあぁ――」
小林は守屋の口元に人差し指を当てる。
守屋「!!」
小林(大声はダメ。あいつに見つかる)
去ったばかりの平手に聞かれでもしたら、守屋の命も危うい。
今度は通らない声量で、小林に訴えかける。
守屋「お願いだから死なないでッ!」
小林(それは、ムリ――)
必死な守屋の顔を見て、優しく微笑んで応える。
守屋「!!だ、誰がこんな酷いことを……?」
小林「ひ、平手……だよ……。あいつに――」
守屋「なっ!!? ゆ、友梨奈ぁ!??」
小林「気を付けて……。やつはすでに他にも――ガッハ!!」
守屋「由依ィ!!!」
小林「ゆ……佑唯を助けてあげて……。あの子、きっと、一人きりで、震えてるから――ッ!!」
守屋「もう喋らないで!! ずみ子は必ず助けるからあ!!!」
小林(負けず嫌いで正義感が溢れていて、私たちの呼び掛けにたった一人応えてくれた。来てくれて嬉しかったよ……。今まで優しくしてくれてほんとうに――)
最後となる一言は口に出して一文字ずつ言う。
小林「あ、り、が………と…………」
守屋「!!!ああっ!!!」
小林由依は感謝を言い遺し、ゆっくりと目を閉じ息を引き取る。
守屋「~~~~~~!!!」
悲しみがこみ上げ、声を上げずに遺体にすがりつきながら号泣する。
もっと早く来ていれば助けられたかもしれなかったと後悔する。
失った命は元には戻らないが、想いを引き継ぐことはできる。
守屋「帰らないと……。ふーちゃんとねるが待ってる!!」
綺麗な死に顔へ一言かける。
守屋「大好きだよ、由依。オヤスミ――」
来た道を引き返し、二人の待つ場所を目指す。
・・・・・・
齋藤と長濱は下山し、西の森まで移動して来ていた。
長濱「ここまで来れば、大丈夫かな」
齋藤「ふう……」
禁止エリアを迂回し、山の中をずいぶん歩いたため小休止する。
隠密に移動していたため、ずっと聞けなかったことを尋ねる。
齋藤「それで、脱出方法なんだけど……」
長濱「あー、そうだったね」
思い出したかのように長濱は齋藤に向き合う。
齋藤「条件が2つあって、一つは最後までうちらが生き残ること。で、もう一つは?」
長濱「2こ目の条件は、その最後が来るまでねるはその方法を教えない」
齋藤「はぁ!?えっ……、なんで!?」
長濱「…………」
長濱は黙り、真剣なまなざしで齋藤を見つめる。
それ以上は言え内容で解らないながらも察する。
齋藤「……なるほど、それが条件なんだな」
長濱は固く頷いて応える。
齋藤「それは、茜がいた方が脱出できる確率が高まるのか?」
長濱「それはもちろん。1こ目の条件はこのチームが最後まで生き残ることやけん、茜ちゃんがおった方がずっといい」
齋藤「…………」
ねるは頭が良い。本当に脱出の方法を思いついているのかもしれない。
でも「最後まで生き残る」にはゲームに参加している仲間を殺さなければならない。
そうじゃなくて、今すぐにでも脱出したい。
それができない、言えもしない何かがある。
もし脱出方法などなく、全てが嘘だとしたら?
脱出を餌に仲間を集めて、最後の最後で裏切られたら終わりだ。
ねるがそんなこと――。
長濱に対して初めて疑いを抱くも、考えても仕方ないことなのでド直球で訊ねる。
齋藤「ねる。信じて……いいんだよな?」
長濱「当たり前だよ!」
齋藤「そっか……」
長濱「仮にねるのことが信じられなかったら撃ってくれても構わない」
齋藤「そ、そんなこと……できるわけないだろ!」
長濱「それにねるがこのゲームに乗っとったらあの時に撃ってるよ」
齋藤(そうだよ!あの瞬間に蜂の巣にされていた)
数時間前で南端で再会した時のことを思い出す。
齋藤「ゴメン!正直疑ってたけど、私はねるを信じる!」
長濱「ふーちゃん!ねるも信じとるよ。最後までずっと一緒だからね」
船の中で、少女たちを映像で見ている男たちがいた。
澤部「脱出なんかできるわけないだろー!なあ?」
黒服1「はい」
澤部「具体的な脱出方法は、この船を奪われることか。そのためにはチョーカーにあるGPSをどうにかしなくちゃならないし、何といっても”コンタクト”があるからな」
プレイヤーの右眼球に”コンタクト”が装着されており、自分で気づくことはできない。
他の人からも間近で覗き込まない限り発見は難しい。
澤部「あいつらの位置も、映像・音声が全部こっちに筒抜けなんだ。仮に脱出しようとした瞬間にバーン!すればいいだけだからな」
黒服1「原田葵は米谷奈々未、長濱ねると一緒なら脱出の算段がついていたそうですが」
澤部「ああ~~!確かに、あの三人が集まったらもしかしたらってこともあったかもな~」
澤部「原田は小学生ならではの子どもの発想で何か思いついたんだろう。まあでももう序盤でもう死んでるし、米さんは中盤で、ねるは終盤で死ぬからな」
黒服2「そんな予想してるんですか?」
澤部「いや~お偉いさん方に聞かれるわけよ。あいつらの番組MCなんかやってっからさ、誰に賭けたら儲かるかって」
黒服2「はあ」
澤部「今回の”バトルロワアル”は誰が優勝すると思う?」
黒服1「やはり自分は平手友梨奈かと」
澤部「平手はな!大本命だろーが!この状況になれば誰もがああなることを予想して……いや、期待してたんだからなあ!」
黒服1「彼女は天才です。完全に殺戮マシンとして勝つために戦っています」
澤部「対抗馬は誰がいる?」
黒服2「長濱ねるではないでしょうか」
澤部「おっ、ねるねるねーるねぇ!強い武器を持ってるし、できもしない脱出を餌に仲間を増やして有利にゲームを進めてるしな」
黒服2「マシンガンは最強の武器ですから、平手との対戦カードが今大会一番の見どころかと」
澤部「ほうほう。他には?」
黒服3「22番の転校生はどうでしょう?」
澤部「う~ん謎の転校生かー。すでに一人殺ってっけど、正体バレてたもんな~」
黒服3「今夜は満月ですし、彼女の独壇場になりますよ」
澤部「そういえばそうか!」
月の存在を思い出し、転校生にもワンチャンあると考え直す。
澤部「じゃあ大穴は誰かいるか~?」
黒服4「自分は守屋茜を推します」
予想外の名前が飛び出し、澤部は驚きと喜びの顔をする。
澤部「んんん守屋ぁ!!平手のことも知ってるし、銃を持ってるからな。軍曹の名前は伊達かどうか」
大人たちは掌の上で踊り続ける少女たちを見て愉しんでいた。
・・・・・・
守屋は最初に長濱と齋藤に会った場所の近くまで戻って来ていた。
守屋(もしかしたらまだ待っててくれてるかもしれない……)
北の山で落ち合う約束はしていたが、行き違いにならないために元居た拠点に寄ることにした。
少しの期待を寄せて先程までいた場所に帰って来た。
守屋「!!」
そこには立っている人の姿が見えた。
守屋(よかった!また会えた――)
長い銃を持っていることから齋藤の名を呼ぶ。
守屋「ふーちゃん!!」
??「!!!」
その人物に声が届くと、瞬時に振り返り顔を見えた。
守屋「あっ!理佐ぁ!!」
齋藤ではなかったが渡邉に近寄ろうとした瞬間、銃声が耳を劈く。
守屋「――?」
渡邉がスナイパーライフルを向け、そこから硝煙が上がっている。
何が起こったのか解らなかった。
――理佐が、銃を、撃った……、誰に?――私に!
撃たれたことを認めると遅れて痛みに襲われ、顔を苦渋に歪める。
守屋「アツ!?」
弾丸は制服の上から二の腕を抉り、深い裂傷をつくって流血する。
右手に握っていた銃を地面に落とす。
守屋「なっ、何でなのぉ理佐ァ!?私は殺し合いなんてしないのに……!!」
涙ながらに訴えるも、渡邉には響かない。
渡邉「フッ……」
守屋「んなにがおかしいのお!!?」
渡邉「何でも何もないよ。たった一人になるまで帰れないんだから殺るしかないでしょ」
守屋「ッ!!」
クールにそう答える渡邉の余裕ぶりから、すでに誰かを手にかけていることを確信した。
落ちている銃を拾おうとすれば、確実に撃たれる。
渡邉「逝ってらっしゃい」
守屋「うわ――!!!」
殺されると察し後手、ブレザーの右の懐に忍ばせていたモノを取り出す。
渡邉「!!」
守屋「あああッ!!」
渡邉は飛び退き、弾丸は地面に当たる。
その隙に、地面に落としたもう一丁の銃を拾い上げる。
さらにもう一発弾丸を放つと、渡邉は木に隠れる。
顔を出した瞬間に撃たれることを恐れ、木を背にして守屋の気配を探る。
渡邉「…………?!」
撃って来ず、気配が遠ざかっていくのを感じ木から姿を現す。
全速力で逃げる守屋の背中を狙い、スナイパーライフルを撃つ。
守屋「ばはっ……!!」
弾は肩にかかる髪を吹き飛ばした。
それでも足を止めずに駆け抜ける。
狙撃は木々に阻まれ、標的を見失った。
渡邉「チッ」
仕留め損ねたことに舌打ちをする。
・・・・・・
11:00
長濱と齋藤は小休止していた西の森から北の山へ移動しようとしていた。
その前に長濱は用事のため齋藤から少し離れる。
齋藤(さっき銃声がしてたけど、茜は大丈夫だろうか。無事にまた会えるかな……)
メンバー想いはチーム1を誇る彼女は心を痛めていた。
ゆいちゃんずの決死の呼びかけに応えず逃げてしまったことに。
長濱の引き留めに折れてしまったのだ。
しかし自分を想って引き留めてくれた。
生きることを最優先にした結果で感謝すべきだろう。
齋藤「!」
用事で消えた長濱と反対方向から人が来る気配がする。
齋藤(茜か!?よかった。ちゃんと来れたんだ……!)
その人物を見て、歓喜の声を上げる。
齋藤「あっ、平手ぇ!!」
平手「……」
平手は俯きながら齋藤に近づく。
齋藤「おい血がついてんじゃん!怪我してんか?」
制服についた血と顔の傷を見て、心配して駆け寄る。
離れた場所で、長濱はかすかに声が聞こえた気がした。
長濱(今、ふーちゃんの声が聞こえたような……。なんか嫌な予感がする……)
胸騒ぎを覚え、世界で一番愛する人の元へ急ぐ。
10メートルを秒で戻った。
戻った長濱が目にしたのは一番恐れていたものだった。
長濱「ふーちゃんッ!!!」
齋藤は腹部を刺され、患部と口元から血を流している。
??「!」
敵はマシンガンを長濱の持つ見て、齋藤を楯にするため首に腕を回して刀を突きつけた。
長濱は敵の顔を見て激昂する。
長濱「ひっ、平手ェエエエエエエ工工工工工工工工!!!!!」
かつてないほど怒り狂い機関銃を平手へ向ける。
長濱(コロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!!!!コイツはココでコロす!!!!!!)
最愛の人を傷つけられて、興奮が限界を超える。
お疲れ様です!
推しの登場が待ち遠しい。
長濱「フ――!!フ――!!!」
齋藤「ね……る……」
荒い息遣いで興奮をわずかに抑え、ギリギリのところで理性を保つ。
すぐにでも平手を全身蜂の巣にしたくてしょうがないのに、引き金を引くことはできない。
長濱(今撃ったらふーちゃんに当たる……!!何とか助けないと――!!!!)
齋藤「ごぽ……」
人質にされている齋藤は口から血を吐き出す。
長濱「ああッ!!ふーちゃん!!」
齋藤は激痛と出血で朦朧とする意識の中、声を絞り出す。
齋藤「に、げ、ろ……!ねる……ッ」
長濱「えっ……!?」
平手は傍らに二人分の荷物が転がっていることに気が付く。
齋藤を楯にしたまま荷物の方へにじり寄る。
長濱(マズイ……!あのバッグの中には、もういっこのマシンガンが入って――)
齋藤「おね、がい……!いきて、くれ………っ」
長濱「!!!冬優花ぁ……っ!」
長濱の頭には三つの選択肢があった。
一つ、重傷の齋藤もろとも平手を蜂の巣にする。
しかし、齋藤を殺すことなどできるはずがない。
どの道平手に殺されるならいっそ自分の手で――。
二つ、ここで齋藤と一緒に平手に殺される。
心中するのであれば平手も道ずれにすればいい。
齋藤を殺して、自分も死ぬか。
三つ、齋藤の願いを聞きしっぽ巻いて逃げる。
最愛の人を置いてこの場から逃げ出すことが許されるのだろうか。
いずれにしても齋藤が助かる道は思いつかなかった。
平手「……」
平手は一つの鞄を見終わり、マシンガンの入ってるもう一つの鞄に手をつける。
時間は有限で永遠に考えてはいられず、苦渋の決断を下す。
長濱(仇は絶対討つ…………。だから!!!)
長濱は背を見せて走り出す。
齋藤「ふっ――」
齋藤はわずかに安堵の顔を見せ、自分のせいで仲間が死ななくてよかったと思った。
平手は二つ目に開けた鞄からサブマシンガンを取り出し、すぐに引き金を絞る。
だららら、と短く連射された弾丸は長濱ではなく木々に吸い込まれる。
平手「!」
定まっていた照準を、人質の齋藤が銃身ずらしていた。
長濱の姿を見失い追うことを諦める。
人質の役割がなくなった齋藤をゴミみたいに捨てる。
齋藤「ぐはっ……。ひら、手~~!!」
平手「……」
無表情のまま齋藤を見下し、サヴマシンガンを構える。
齋藤は銃口を覗かされ、自らの死を悟る。
齋藤「地獄へ……、落ぢろ゙……ッ!!」
それが引き金となり、サヴマシンガンは火を噴く。
齋藤冬優花の顔を半壊させ、血の花を咲かせた。
平手「だららららら」
最強の人物が最強の武器を間近で見つめ、子どものように銃声を口にした。
残り16人
第四話
12:00
澤部『えーそれでは正午の放送をしますーす!』
時刻は正午になり、運営側から二回目の放送が入る。
澤部『死亡したメンバーを発表します。七番小林由依と八番齋藤冬優花!!禁止エリアの発表をするぞー』
三つの禁止エリアを読み上げると、早々と放送は終了した。
放送を聞いた長濱は悔しくて悲しくて苦しくて胸が引き裂かれた。
長濱「あっははぁあああん……!!!!」
量の涙を流しそれが銀河となる。
長濱(脱出方法なんて……ない……。嘘っぱちだ……)
絶対に外れないチョーカーがある限り脱出は不可能だ。
素人の小娘にどうやって複雑な機械を外すことができようか。
最期まで生き残り、二人きりで明日の24時まで愛を深め合った後自殺するつもりだった。
齋藤を優勝者にさせて、正攻法で島から脱出させる計画だったのだ。
長濱「×××……」
長濱ねるの脱出方法は破綻し、齋藤を亡くした悲しみで溺れ続ける。
・・・・・・
十五番土生瑞穂は放送を聞き終え一人安堵していた。
土生(よかった……。あの子はまだ死んでない……)
我に返り安堵していた自分を叱咤する。
土生(いやいや、何を安心しているんだ!メンバーが何人も死んでるんだぞ!!)
ゲーム開始から自分より先に出たメンバーを求め、島を奔走していた。
支給された武器は2メートルはある棒と先に取り付けることができる槍の刃だった。
刃は取り付けずしまったままで、ただの棒っきれとして持ち歩いている。
土生(早く見つけないと……とりかえしのつかないことになる――)
森を進んでいくと先に倒れている人の足が見えた。
土生(だ、誰か倒れてる!?いや、まさか――!!)
探し人ではありませんようにと願い、確かめるべく足早に近寄る。
土生「あ……っ、葵ちゃん…………」
そこには頭部を撃たれ原田が死んでいた。
人の死体を初めて見てそれが二年半共にしたメンバーであり力が抜けていく。
現実のものとは思えず、どうしようもない不安感が募る。
土生(ダメだ……やっぱり、意味が分からない……っ。でも、ここでへこたれてるわけにはいかない!)
棒を杖に立ち上がり、現場検証を始める。
傍らに自分が持っているのと同じ棒っきれが落ちている。
周囲を見ると、近くに空薬莢が落ちていた。
犯人はこの弾の銃を持っている。
空薬莢をポケットにしまい、現場検証を終える。
最後に原田との思い出を振り返る。
土生「…………」
お仕事とお勉強を両立しててほんとに偉いよ。
大きいことにコンプレックスを抱いていたから、ちっちゃくて可愛い葵ちゃんに密かに憧れてたんだよ。
同じ東京出身だったけど年も離れてるしあまり関わらなかったけど二人のユニットがあったね。
“ゴボウちゃんず”、一瞬だけだったけどすごく嬉しかった。
ぷくっと頬っぺを膨らませてる葵ちゃんがいつも可愛かった。
土生「ナム」
遺体の前で手を合わせ、探し人を求めて走り出す。
土生が杉村ポジションかぁ。
となると琴弾はどっちだろう?
・・・・・・
17:00
ゲームは進行しないまま、陽が地平線にたいぶ近づいて空が茜色に染まりつつある。
守屋は西の森で膝を抱えて震えていた。
昼の放送で齋藤が殺されたことを知り、小林が平手に殺されたのを目の当たりにした。
自分も渡邉に殺されかけたことで完全に怖じ気づいていた。
守屋(う、動いたら……死ぬ……。殺される……!!ここでじっとしてれば大丈夫……?)
薄暗い森の中に潜んで入れば見つかることはない。禁止エリアにならない限り。
かれこれ六時間以上も何もせず、ただ生きていた。
孤独と絶望が増長し闇に押し潰されそうになり、発狂したくなるのを必死に抑え込んでいる。
こんな時こそ人肌が猛烈に恋しくなる。
守屋(ひ、一人はダメだ……!誰かに会いたい!!今、本当に信頼できるのは――)
現在、生き残ってるメンバーを思い浮かべる。
長濱は齋藤が殺され、今はどうなってるか分からない。
織田も小林を殺されて正常でいられるだろうか。
理佐がああなってる以上志田もやる気になってそう。
渡辺は普段はあんな感じだけど、実は裏の顔があってゲームに参加してたらどうしよう。
長沢は狂気に駆られてイカているかもしれない。
土生はデカくて怖い。
小池は関西人でキレてたらヤバい。
上村は平手のマネをしてゲームに乗っているかもしれない。
普段信じているメンバーのことを、この状況が疑心暗鬼にさせる。
そんな中、たった一人だけ心から信用できる人物がいた。
守屋「友香ぁ……!」
キャプテンの菅井は、どんな時もチームとメンバー一人ひとりのことを考えてくれている。
優しくて柔らかい菅井に限っては殺し合うことは世界が滅びてもあり得ない。
守屋(友香に会いたい!!友香なら絶対に信用できる!)
平手、理佐、転校生だけではなく菅井以外のメンバーには銃を向けることを心に決める。
久しぶりに立ち上がり、軽く屈伸と準備体操をする。
守屋(友香なら多分誰かといるはず!となるとどこかの建物にいる?)
ウォッチの地図アプリを見て、直感で最東端にある灯台にいる気がし目指すことにする。
自分を無理やり鼓舞し、気合を入れて第一歩進もうとした時だった。
守屋(よっしゃ行くぞぉ!……ッ!!??)
移動しようとした時、人影を見つける。
その人物はまだこちらに気が付いていない。
守屋(ゆ……ゆ、友梨奈……!!!!)
最も会いたくない人物に遭遇し、息と体が硬直する。
平手は10メートル先を守屋から見て横切っている。
守屋(どうしよう!!?見つかったら殺される!!!)
早くも移動しようなんてしたことを後悔していた。
隠れてやり過ごすか。このままだとこちらに気付かれるかもしれない。
守屋「…………」
小林の死の間際を思い出し、自然と銃を前に向けていた。
平手「!!!」
銃を向けられ殺気を感じ取った平手は振り返る。
守屋が銃を向けていることを認識すると目の前の木に飛び込む。
引き金を絞り、弾丸は先ほどまで平手がいた地面に当たる。
守屋(ここで友梨奈を倒せば他のみんなを守れる!!それに、由依の仇だ!!!)
守屋「うっ…………うおおぉおおあああああああ!!!覚悟しろよォ友梨奈ァああッ!!!」
二発目の怒りの射撃は平手の隠れている樹に命中する。
守屋「みんなの事は私が守るッ!!!」
三発目も木に命中する。
弾が止むと平手は隠れる木々を素早く移動し、徐々に迫って来る。
守屋(な、何……!?速すぎて――!!)
四発目、五発目を素早く移動する平手に向けて撃つも命中しない。
平手「4、5………6」
標準が定まらないまま六発目も空を撃ち、弾切れになる。
平手は六発撃ったことを数えており、木から飛び出て一気に突っ込んで行る。
守屋「!!」
練習通りに素早く空弾倉を落としスカートから予備マガジンを取り出し装填した。
平手に3メートルまで接近され、銃口を向けると停止した。
平手はじっと銃を睨み付け、真剣を前に構えている。
守屋「友梨奈ァ……何か言い残すことはある?」
平手「……」
声は届いているのに会話ができない。無口キャラを演じているのか。
殺人鬼は語らない理想像を描きそれに完全に成りきっている。
そんな事情など知らず、物言わぬ最年少に結論を出す。
守屋「…………、そう。じゃあ、死んで!」
ドンと放たれた弾丸はひらりとかわされ同時に間合いを詰められる。
守屋(よ、よけられたあ!!?もう一発――!!)
あまりにも至近距離に迫られ、発砲と同時に目をつぶる。
再び人差し指を絞るより先に、一閃の斬撃が守屋を襲う。
守屋「っ!!!……ッ?」
確かに引き金を引いたつもりだったが銃声は響かず、代わりにボトッと地面に何かが落ちる。
音からにして重量のあるものだと感じ、そっと目を開けて見る。
守屋(て……手ェッ!??だ、誰の……!!?う、私の――!!!!!!??????)
地面には銃を握っている人間の右手が落ちていた。
切り口から血が飛び出て骨を断たれた激痛に天津飯のように仰け反り、偶然とどめの斬撃をかわせていた。
守屋「ぎゃぁああああっはああああああ゙あ゙ッ!!!!!!!!」
後方に倒れ、山の斜面になっておりそのまま下まで転げ落ちる。
後を追うように平手は滑りながら坂を下る。
全身打ち付けながら平面のところで止まり、よろよろと立ち上がる。
守屋「ッ~~!!!!!!!」
滑って迫り来る平手を見て、懐からもう一丁の銃を取り出して向ける。
守屋「ユ、リ、ナアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!」
平手「!」
平手は坂の途中で止まり、下の守屋を見降ろす形で対峙する。
守屋は負傷した右腕を心臓より高い位置に上げ脇を締める。
激痛どころの騒ぎではなく目をちかちかさせながら質問をぶつける。
守屋「何でこんなごどお゙お゙お゙!!!!何で由依を殺じだのおぉおおおお!!!?」
平手「?」
首を傾げ、頭にはてなを浮かべている。
守屋(――こいつッ!!?完全になりきってるっ!!!)
平手にとってサイレントマジョリティーにしても殺し合いにしても同じこと。
自分が演じなければならない役を完全に理解し、それを完璧以上に成り切ることができる。
故に彼女が天才と呼ばれているのだ。
守屋「~~~~~!!!!!」
話をしても無駄だと判り背を見せて逃げる。
それを追いかける平手。
手負いでも漢字欅で一番足の速い守屋から徐々に離されてれていく。
平手「…………」
逃げ切られると判断すると腰のマシンガンを取り出し、追いかけながら火を噴かせる。
守屋「ぅぴょんっ!?」
ダララララララララと十発撃たれたが、木々が障害物となり当たらなかった。
ここに来て軍曹の悪運の強さを発揮する。
守屋(足でなら友梨奈には負けない!!!!絶対二逃ゲ切レル――)
再びマシンガンを守屋に狙いを定め引き金に指を掛ける。
数撃ち続けられ内二発が木々をすり抜けて右腕を貫通と左肩を掠めた。
守屋「あ………………」
死んだと思い景色がゆっくり流れだす。
実際に足が止まり体が傾き視界が斜めになる。
守屋「ぐっ――ふッ!!」
ここで足を止めたら本当に最期、何もかも終わりだ。
気合で踏ん張って持ち直し、再び足を回す。
守屋「うわぁあぁあああぁあああぁあああ……!!!」
叫びながら逃げる守屋を地獄の果てまで追う平手。
しばらくすると森が開け、断崖から海が一望できるところに出た。
守屋(なっ!!?森がっ!??)
ここには一切の遮蔽物はなく、マシンガンは守屋を一直線上に捉える。
平手は標準が定まり指を絞ろうとした瞬間、視界に白いモノが飛び込んでくる。
それはマシンガンに覆いかぶさるように直撃し、手から弾き落とした。
平手(メガ、ホン――?)
地面に落ちた黒いマシンガンと白いメガホンを見た。
飛んで来た方角へ振り向きざまに刀を振る。
平手「!」
ガギンとちょうど二本の刃による攻撃を日本刀で受け止めた。
刃と刀がぶつかり合い、微量の火花が散る
襲撃者は両手にクナイを持ち力いっぱい押す。
今泉「久しぶりだなァ、平手ッ!!!」
平手「今、泉……」
小林は命を賭けて自分を逃がし、平手と戦ってくれた。
きっと平手に殺されなくても、転校生に殺されるのがオチだ。
今泉(私だけが生き残っちゃいけないんだ……。だったら私も命の限り抗って、闘ってから――死ぬ!!!)
死を覚悟した今泉の力は強く、平手に押し勝ち退かせる。
振り返らずに走っていた守屋は何が起こったか分からずにまだ走り続け平手から逃げ切る。
今泉(茜ちゃん、よかった……。私でも人を助けることができた――)
守屋の逃げた方を見て姿が見えなくなり仇に向き合う。
今泉「平手~~!!お前は、私が殺すッ!!」
分校でたまたま一番近くに眠っていた平手を起こした。
思えば平手に触れて、話しかけたのはずいぶん久しぶりだった。
こんな状況なのにこうして一騎打ちで戦えることが少しだけ嬉しく思う。
たった一人きりの親友にして相方を殺された怒りで全存在をかけて闘う。
平手「……」
平手は顔色一つ変えず、今泉を迎える。
日本刀を構える平手は自然と達人の構えになっていた。
剣道を習ったことも刀を持ったこともないが最も適した構えが達人のそれだった。
またはドラマで見たことがありマネをして演じているだけの可能性もある。
今泉はクナイを順手から逆手に持ち替え、胸の前で手を交差させ重心を低くする。
しばらく見つめ合い、平手から一瞬で間合いを詰めて仕掛ける。
今泉(速い――!!)
一閃の突きを右手のクナイで受け流し、左手のクナイを顔めがけて振り回す。
仰け反ってかわされ、刀を振り下ろして来た。
両手のクナイを交差させて受け止めたが、ガラ空きの胴へ前蹴りをもらう。
今泉「うッ――」
数メートル吹っ飛ばされる。
人生で初めて腹を蹴られ、鳩尾に入り未知の腹痛に襲われる。
弱っている状態で刀を突いて来た。
今泉「!!」
身を転がしてかわし、刀は地面に刺さる。
泥だらけになりながら、身体を起こし膝立ちになる。
今泉(こ、殺しに来た……!負けてられるか――)
天才今泉は目を覚まし、平手のマネをする。
今度は今泉から仕掛ける。
今泉「フッ――」
今泉の右クナイを振り下ろすと、刀を横にして受け止められる。
ガラ空きになった腹へ左クナイを突く。
平手(……!!)
今泉の二弾攻撃は横にはかわせず、下にもしゃがめない。
平手が出した答えは上であり、飛び跳ねて空に逃れる。
宙にいる平手へクナイを一つ投げ飛ばす。
一太刀で弾き飛され、大振りが降って来る。
バックステップでかわし、そのまま弾かれたクナイを拾う。
平手は着地と同時に恐るべき脚力により一っ飛びで間合いを詰め切め、そのまま刀を突き出す。
今泉「なっ!?」
背後に毒々しい髑髏が浮かんだ気がした。
後退し続ければ死ぬ予感がした。
今泉(かわし、切れない!!!!死――――)
死を覚悟した瞬間、迫り来る日本刀がスローモーションになる。
後退中に右横へ急転換する。
今泉「ずあッ……!!」
今泉は胸を斬られ、転がりながら距離を置く。
今泉「ハァ!ハァ!!ハァ!!!」
豊満な胸で防がれ、致命傷に至らなかった。
まな板であったなら、即死していただろう。
それでも乳房を斬られた痛みは大きく、苦渋に顔を歪める。
胸に手を当て、深呼吸をする。
今泉(いっっっったあ~~~~!!心臓が激しく動いてるのが判る……。私はまだ生きてる!!)
長期決戦になれば不利になることを知り、一気に勝負に出る。
今泉は走り出しアニメのように距離を保ちつつ敵の周りを回る。
平手「……?」
平手にはこれが何の意味があるのか解らなかった。
今泉はある地点で急転換し、平手へ突っ込みクナイによる連続ラッシュを繰り出す。
今泉「はあああぁああああああああああ!!!!!」
朝小林から受けたサーベルラッシュは片手のみだった。
夕今泉からのクナイラッシュは両手である。
今泉「あらららああああああああああああああああああああ!!!!!」
キンキンキンと刃と刀がぶつかり合う音が響く。
次第に加速していき、小林仕上げのボロボロの制服をより破壊していき小さい切り傷も与えた。
平手も負けじと刀で対応し続けているが、小回りの効くクナイに対して圧倒的に不利だった。
平手「っ」
一旦距離を置くために、後方へ飛び退く。
足元を見て、あることに気付く。
平手「!?」
平手は断崖絶壁に立たされていた。
眼下は高さ15メートル以上はあり海が広がっている。
珍しく焦りの表情を見せ、刀を持つ手に汗を握ってた。
今泉はただ連続ラッシュしていたわけではなく、崖の方へ少しずつ悟られないように追い詰めていたのだ。
今泉(嘘――、勝てる……!!あの平手に……、この私が――!!)
実力であと一歩で平手に勝てる直前まで来ていることが信じられない。
めっちゃ面白い
勢いで最後のとどめの算段を立てる。
また連続ラッシュをしても見切らて反撃される。
やつに同じ手は通じるわけがない。
だからまず、クナイを一つ飛ばす。
それを避けられまたは弾かれ、その隙にもう一つのクナイで突っ込む。
反撃されたとしても平手に致命傷を与え、そのまま崖下に突き落とす。
今泉(終わる…………)
決着が近いことを悟る。
夕日が三分の一沈み始めて、空が赤く染まる。
相打ち覚悟で、命の勇気を振り絞って実行する。
今泉「平手ェ―――――――――――――――ッ!!!」
叫びながら平手の顔めがけてクナイを投げつける。
同時にクナイのすぐ後ろをダッシュする。
今泉(さあ!避けるか、弾くか?)
その時、ドンと轟音が響き世界と体が停止する。
投げたクナイは平手の頬をかすり、彼方へ消える。
今泉「――な……に……?」
平手を見るとあるモノを持っており、そこから硝煙が上がっていた。
それは先刻守屋から腕とともに斬り落とした拳銃だった。
銃だと認識して、ようやく自分の身に起きたことを理解する。
今泉「ごぽっ」
右胸に穴が空き、血を吐いて前に倒れた。
今泉(ああ――。やっぱり…………)
最後の最後まで銃を使わなかったのは、数少ない弾丸を節約するためだったのか。
それとも真剣勝負に応じてくれたのか。
もしくは守屋から奪った銃の存在を忘れていたのか。それはないか。
いずれにしても真剣勝負では今泉が勝ったが、殺し合いという仕合においては敗れた。
今泉(平手……には、誰も……敵わ、な――い……)
センター平手友梨奈に一度も敵わないまま、今泉佑唯は生涯を終えた。
陽が地平線に沈み時刻が18時になると、ウォッチから三回目の放送が入る。
澤部『今日も一日お疲れさん!まずは死んだメンバーを発表するぞー』
澤部『二番今泉佑唯。以上!どうしたーペース落ちてきてるぞ~もっと頑張れい!』
その後三か所の禁止エリアを発表し放送が終わる。
平手「……あと、14」
島にいる自分を除いた残りの人数を呟く。
・・・・・・
守屋は右手を失い穴が空いた体で命辛々診療所の近くまで来ていた。
守屋「あっ、た…………っ」
建物が見えたところで、力尽き倒れる。
しばらくして、屋内から眼鏡をかけた人物が出て来る。
十手を持ち警戒しながら歩き、満身創痍な守屋を見つける。
??「早く手当てせんと……!!」
関西弁の少女は、守屋を担ぎ診療所の中へ運ぶ。
残り15人
センター平手友梨奈に一度も敵わないまま、今泉佑唯は生涯を終えた。
この一文が、話のストーリー的にも、今の欅にもバッチリ当てはまり過ぎてて草
みつこはりさかな?
そうだね、十手眼鏡はよねさんだ
第五話(前半)
19:00
十九番米谷奈々未はあるメンバーを探し、診療所から分校の近くにまで来ていた。
米谷(確か、この近くやったな……)
記憶する場所に大分近づいた時、かけている眼鏡型探知機に自分以外の反応が増えた。
米谷「!」
体が硬直し、そのまましばらく足を止める。
レンズに写る赤い点が動かないことを確認する。
米谷(……間違いない。この先に、虹花がおる――)
反応のする方へ、ゆっくり歩を進める。
森を抜け道に出ると、道端にチームメイトの死体が転がっていた。
米谷(虹花……)
石森の死体を見るのは二度目になる。
一度目は分校から出てすぐに見つけ、恐怖のあまり逃げ出してしまった。
死体の前にしゃがみ、前にできなかったので手を合わせて追悼する。
米谷(一体誰に殺されたんや……。転校生か、あるいは――)
守屋を介抱している時、うわ言であるメンバーの名前を言っていた。
おそらく守屋はその人物に斬られ、撃たれたのだろう。
石森には刃物で刺された傷が見受けられる。
もしかすると守屋を襲ったのと同一人物かと憶測する。
米谷(今は考える時やない。すべきことをせんと)
守屋に輸血するために懐から注射針を取り出し先端のキャップを外す。
石森の腕の袖をめくりあげると、肘まで素肌が露わになった。
硬直している腕の血管へ針を刺すと、何も起こらなかった。
米谷「……え?」
数秒後に数滴の注射器に血が流れ込み始める。
米谷(お……遅すぎる!!死んでからかなり時間が経ってるからか!?)
森とは違い道の真ん中にいるだけでかなり命を危険に晒さしている。
ゲームで動くことは死ぬ確率が高くなるという当たり前なことを理解していた。
逆に動かず一か所に隠れていれば生存確率が高まる。
死にくなければ動かないなければいいだけの話だ。
それを回避するために運営側は禁止エリアを設け、プレイヤーを行動させリングを狭めている。
一刻も早くこの場を立ち去らなければならないのに、一向に血は溜まらない。
患者の出血量からして、2リットルは必要である。
右手は注射器を支え、左手は硬直した腕をもみほぐすも変わらなかった。
米谷(腕を切り落として血を採れば……。あるいは――)
すでに死んでいるとはいえ死者を痛めつけるのは許されない。
しかし死んでしまった人より、今まだ生きている人を救うべきだ。
米谷(やるしかない。守屋の――みんなのために……!)
10時間ぐらいぶっ続けで書いてる。
傍らに落ちている斧を持ち上げる。
軽く素振りをして、切断しようとする箇所に刃を近づける。
米谷「虹花……、ほんまに……ごめん!!!」
巻き割の要領で、石森の身体へ斧を振り下ろす。
米谷「――ッ!」
一太刀では断ち切れず、斧を引き抜き再び振り下ろす。
それから数回に渡り骨と肉を斬り、息を切らす。
米谷「ハァ、ハァ、ハァ……!!」
死後12時間以上経過していても、動脈が集中している箇所なので勢いよく血が溢れる。
切り口へ血液パックを直に当て血液を溜める。
米谷(覚悟していたことや、こうなることは。虹花……。許して、くれんくてもうちはきっと地獄行きやろな。いや、もうここが生き地獄か)
やってはいけないことをやっているようで罪悪感に苛まれる。
生き残るためとはいえ、死体損壊罪を犯してしまった。
犯罪に巻き込まれている状況下での犯罪は問われるのだろうか。
米谷(ここが島で良かった。都会やったら埃や黴菌が入って使いもんにならんかったからな)
潔癖症の米谷が血液は汚れていないと太鼓判を押す。
守屋を救う血を溜めながら脱出方法を考えていた。
米谷「…………」
助けを呼ぶことは無理だ。
支給されたウォッチの電波は送受信全て船で管理されている。
インターネットも使えず、たとえスマホを持っていても電話も通じないだろう。
ハッキング技術があればチャンスがあったかもしれないがそんな芸当誰ができよう。
助けを待つのも期待できない。
2月なのにこの涼しさからして、おそらく小笠原諸島もしくは沖ノ鳥島より南に位置しているのか。
地図にも乗っていない島に偶然この二日間に通り過ぎる船があるだろうか。
絶対的にチョーカーを外さなければ脱出はできない。
これがある限り、大人たちの操り人形で居続けるしかない。
明日の24時に一人以上生き残っていた場合でもチョーカーさえ外れていれば生き残れる。
これさえクリアできればなんとかかなる。
あとは船を襲撃して、ゲームを止めさせる。
禁止エリアに入ると爆発させられることからGPSが内蔵されている。
外せば澤部達のいる船に気づかれずに近づくことができる。
武器はあるが最終的に銃撃戦を制さなければならず不確定要素が多く危険だ。
確実とは言えないが脱出方法を思いついていた。
石森のチョーカーを見て、簡単に触って確かめてみる。
米谷(カメラは……ないな。たぶんマイクは内蔵されとるやろうけど)
一つ手に入れば何時間かかってもいいから慎重に解体して中身を調べられる。
米谷(爆弾を回避して、取り外すことができれば――生き残れる!)
考えている内に、血液は1.5リットル近く溜まる。
重傷患者に安全とは言えない血を輸血するのは病気になりやすいと聞いたことがある。
今死んでしまうよりかは、例え後に病気になったとしても病院で直すほうがはるかに良いだろう。
米谷(よーし。あと少し――)
??「よねっ」
米谷「!!!!!」
突然声をかけられ、呼吸が止まり心臓が止まりかける。
振り返るとそこにはよく知る顔があった。
米谷「う……、上村……!」
三番上村莉菜が青ざめて震えている。
上村「な、何してるの……?」
米谷の後ろで誰かが血を流して死んでいる。
顔は米谷の背に隠れて見せなかった。
医療器具が転がっており、一体何をしていたのか問う。
米谷「こ、これは………!」
周りを警戒していたが脱出の事を考え集中しすぎて接近に気づかなかった。
上村「…………」
今まで上村は一人海の見える森の中で体育座りしていた。
どうして自分がこんな地獄に投じられたのか分からず負の感情が増長する。
日常で抱いていたメンバーへのほんの些細な不満が爆発する。
虹花は、バカ女。
頭が悪いから空気読めないし、現場が白ける。
そこまで大したことないのに演技っ気があるとか言われて調子乗るの止めな。
今泉は、情緒不安定女。
私がイジメたとかネットで叩かれ、休養したのも私のせいだと書かれてて訳が分からない。
あいつが休養したせいで残客がめちゃくちゃな脚本になって最悪の出来になったじゃない。
尾関は、気持ち悪い女。
仲良しだったのに気づいたらどっかに行って裏切った。
ちびま〇子ちゃんにしか見えないのに、なんで欅に受かったのか七不思議の一つだ。
たまにする気持ち悪い動きするの止めな。
美波は、関西カラコン女。
この子に限ったことじゃないけど、でっかいカラコン入れなきゃ生きていけないのかな。
似非関西弁に関して血相を変えて怒るけど、自分も「滑舌できませ~ん」があざとすぎてバカみたいだから止めな。
由依は、ビジネスぼっち女。
さっぶいブログの出だし書いて、すかしてんじゃねんだよブス。
推しはみんなB専で間違いなし。
冬優花は、ダンス女。
ブスだから欅全体で人気最下位だからダンスで頑張るしか能がないから可哀そう。
人気メンにすり寄って、おこぼれをもらおうとするの止めな。
詩織は、話が長いわがまま女。
自分の言いたいことは言わないと気が済まない超絶自己中な子。
話長くするの止めな――かったらから首輪吹っ飛ばされたんだ。
愛佳は、顔デカ性悪女。
私の事をババアとかオババとかうるさいんだよ。たった2こしか違わないのにしつこいんだよ。
基本人の悪口しか言わず、そのくせゴミみたいなロケしかできない。完全に欅のガンだから欅辞めな。
友香は、馬大好き金持ち女。
金持ちなのは親のおかげなのに調子こいてる。きっと欅に入ったのも審査員を買収したに違いない。
本気で滑舌が悪いしキャプテンに向いてないから止めな。
鈴本は、居眠り不貞腐れ女。
現場の入り前や休憩中にいっつも寝てて、どんだけ寝れば気が済むの?夜に何やってるの?
紅白という大舞台で口パクだったのにご自慢のダンスで過呼吸になってるのほんとに意味わかんない。
ダンスメン名乗るの止めな。
菜々香は、大口大食い女。
永遠に食べてる的な大口叩いてた割には、ひらがなの子に余裕で負けてるし口だけじゃん。
大食いキャラ名乗るの止めな。
ねるは、不正加入ゴリ推し女。
あのタヌキはSRで秋元先生が来た時だけぶりっ子して、いなくなった途端友香をイジメてて不愉快だ。
紅白の時も平手が倒れて一番近くにいたのに何もしなかったから私が助けに押し退けてやったんだ。
土生は、のっぽ女。
身長170cm以上ってアイドルの身長じゃないから。
モデルを期待されてたのに理佐と梨加に先越されてどんな気持ち?
アニヲタでたまにコスプレしててマジキモいから。
しかもアニメ声だからって理由だけでラジオもやっちゃってるし、おバカ丸出しなんだから止めな。
茜は、無添加大好き努力女。
努力は悪いことじゃないけど、負けず嫌いなわりに負けると判ると勝負を降りるような口だけなやつだ。
副キャプテンという聖職だからって調子こいている。実質何もやってないからいっそ止めな?
梨加ちゃんは、ただのパワー型池沼女。
普段は普通なのに、番組になると恥ずかしがり屋さん演じて小声で喋るキャラもう飽きたから止めな。
理佐は、小顔モデル女。
欅で一番の小顔だからモデルに選ばれただけなのに気取ってる。
私も齋藤飛鳥さんに憧れて、いつかモデルになった時のために撮影のこととか聞いてみたら「ウザい」と見下された。
お高くとまりやがって、いつか飛鳥さんみたいな写真集出して見返してやりたかったのに――。
上村(そして、目の前にいるのは冷徹潔癖微生物大好き女――米谷奈々未!)
米谷の後ろに誰かが倒れている。まさか殺していたのか。
優しさに定評がある米谷なら一緒にいてくれると思っていたから声をかけたのに。
上村「な、何してるのっ!?」
米谷「いや、これは……その……っ」
背中に隠れている倒れている誰かを見るため、ふらふらと近寄って来る。
米谷(アカン!これ以上近寄られると……)
米谷は恐れていた。
第二者が見て実況し運営側にこの状況がバレてしまうことを。
チョーカーにはマイクが仕込まれているから余計なことを喋らせないために銃を取り出す。
米谷「止まれ……!」
上村「ひぃいっ……!?」
守屋が握りしめていた銃を借り上村へ向ける。
フリーズする上村は訳が分からず理由を訊ねる。
上村「なんでっ、どうしてぇ!?」
米谷「来るな。行ってくれ」
上村「そのメンバー誰!?米が殺したのっ?!」
米谷「いや、うちやない」
上村「じゃあお願い一緒にいてよ!!もう怯えるのはやだよお!!」
兎の心を持つ上村は寂しがり屋で、メンバーを求めて行動に出たのだ。
些細な物音にも反応し、一睡もできず疲弊しきっていた。
米谷「ダメや……!あんたは信用できひん……!!」
上村「!!??だからなんでなのおっ?!」
米谷「……お願い。どこかに消えて!」
上村「あッ」
上村は自分の手に持つ物を見て気づいた。
米谷「!?」
カランと金属物が地面に落ちる音がした。
上村の足元には二つの手裏剣が落ちていた。
上村「ほらぁ!!!私、敵意なんて全然ないよおっ!」
身の潔白を証明するために敵意がないことを示す。
しかし米谷の答えは変わらない。
米谷「ダメや!そういう問題やない……」
上村「ぉ、お願いだから一緒にいようよぉ!!」
上村はさらに近づいて来る。
米谷「……!」
なりふり構わず足元に向けて発砲する。
上村「ォだヱり!?」
本当に撃ってくると思っておらず変な声が出て、地面にへたりこむ。
威嚇射撃が成功し、上村の動きを封じた。
上村「………っ」
上村は米谷に殺意がないことは判った。
殺すつもりならとっくにあの世に逝っているはずだ。
上村(じゃあ、なんで……?私ってそんなに信用ないのっ!?)
自分に落ち度はないか正常ではない脳内で考える。
上村「あっ……もしかして――」
米谷「……え?」
上村「棚を、工具を使わぐ手をトンカチのようにして組み立てた……!」
米谷「ん……?」
上村「私が……”手トンカチ”を……持ってるからっ!!」
米谷「は?テトンカチ?」
上村「手トンカチを捨てるからっ!一緒にいてよおっ!」
米谷(こいつ……いよいよあかんな。こんな状況やからしゃーないとは思うけど、早くここから離れないと……)
泣きながら少しずつ歩を進めて来る。
米谷「来んなッ!!」
上村「ナぎィ!!」
威嚇射撃は来なかったが、死体の顔が見えるところまで来た。
上村「に、虹花ぁ…………!?」
分校で佐藤の首が吹っ飛んだことを思い出す。
何故なら石森も同様に生首になっていたからだ。
様々な疑問が押し寄せ、もはやパンクしていた。
米谷(しまった!!バレた――)
視線を米谷の方へ戻すと、異変に気付く。
上村「あっ」
離れようとすると突然上村が得意の指差しをする。
米谷「ん?」
それは自分ではなくはるか後方を差していた。
振り返ると山から駆け降りて来た平手が機関銃をこちらに構える。
米谷「!!!」
間髪入れずにダラララララララと躊躇なく火を吹かせる。
米谷は石森の死体を盾に、後ろにいた上村は米谷の後ろへ入る。
米谷「づッ!」
上村「ぎゃッ!!」
ほとんどの弾は死体に吸い込まれたが、一発は米谷の右脚を掠め一発は上村の左腿に被弾した。
上村はその場にうつぶせに倒れこんだ。
米谷(上村!!それより――)
上村の心配を後に、今は殺人鬼の相手をしなければ自分が死ぬ。
米谷「平手ェ!!」
平手「!」
叫びながら銃を向け、敵が躊躇わなかったように撃つ。
平手は銃の向きから弾道を読み横へ動いて避け、再び機関銃を向ける。
米谷(ここまでか……!!)
平手「…………よ……ね」
米谷「!?」
辛うじて声が耳に届いたのは、自分の愛称だった。
平手は機関銃を向けたまま固まり、動かないでいる。
米谷(撃って来ない!?どうする、話を……いいや、ここは――)
荷物を放棄して右手に血液パック、左手に拳銃を持って森へ逃げる。
平手は目で追うだけで撃ちもせず、結果からしてみすみす逃がした。
平手「…………」
米谷を追わず、もう一人の倒れている上村の元へゆっくり歩を進める。
腿を撃たれた上村は指一本動かないでいる。
上村(痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!ああああああああ脚があぁああああああああはは――!!!!)
本当は激痛にのたうち回って痛がり同情の的になりたいのを必死に我慢する。
上村(ひ~ら~て~~~っ!!!!!このクソガキぃがぁあっ!!!!!)
平手は、中二病わがまま女。
お前なんかあの時○○野郎に殺されれば良かったんだ。
元はと言えば、平手が病んでから欅は下り坂になった。
欅が殺し合いさせられているのもこの私がこんな目に合ってるのも全部こいつのせいだ。
上村(来い来い来い来い来い!!!!!死んだふりをして死を確かめに来たところに両目へ手裏剣を投げつけてやるぅー!!!)
平手「……」
死んだふりをする上村の左側に立ち、じっと見下ろす。
上村(よ~~し。今だ!!!!)
気配で自分のすぐ左側にいることを感じ、一気に上体起こしをする。
上村「えーいっ!――えっ?」
先程まで平手がいたはずなのに忽然と姿が消えていた。
上村(いない……。米を追いかけた?てことは、私……助かったんだっ!!)
生き延びれたことに心底安堵し、ここに来て初めて妖精のような顔を見せる。
ふっと月明かりに影がかかると同時に頭部に何かが落ちて来た。
上村「えふっ」
平手が降って来て、日本刀を脳天から串刺しにした。
上村莉菜は目と鼻と口と耳から血が溢れ出て、悪魔のような顔で昇天した。
頭から日本刀を引き抜き、血を振り払ってから鞘に納める。
足元には上村と石森の死体が仲良く転がっている。
自分が殺めた二人を見つめ、その場を後にした。
そこから200メートル離れた森の中で米谷は座っていた。
米谷「上村……、ごめんな……。うちのせいで……」
おそらくもうこの世にはいないであろうチームメートに懺悔する。
米谷(威嚇射撃した時の銃声を聞きつけてすっ飛んだ来たんやな……。平手、うちを追って来なかった……。うちのこと――)
認識してから撃って来なかったのではないか。
それともただ弾切れしただけなのかもしれない。
米谷(ありがとう、虹花。おかげで脱出できるかもしれない)
遠く離れてしまったが遅れて礼を言い、ポケットからチョーカーを出してみる。
米谷が石森の首を切断したのはチョーカーを回収するためでもあった。
守屋を助けるため採血もでき一石二鳥になった。
撃たれた脚の止血と簡易処置を終えて立ち上がる。
太い枝を杖にして、瀕死の患者が待つ診療所へ帰る。
・・・・・・
23:00
十三番長沢菜々香と二十番渡辺梨加はゲーム開始直後から一緒に居た。
夜明け頃に北西に位置する神社で遭遇していた。
支給された二人の食料はほとんど長沢の胃の中に納まり底をつく。
長沢「お腹すいた」
殺し合いの最中であっても空腹には耐えらなかった。
明日の24時までにたった一人にならなければ全員が死ぬ。
制限時間を待たずして飢え死にする前に、食料を求め拠点にしていた神社を後にする。
渡辺「みんなどこにいるんだろう?」
長沢「とりあえず灯台に行こう。誰かいそう」
渡辺「……東、大?」
長沢「人もいれば食料もまだ余ってそうだし、脱出できるかもしれない」
渡辺「ん?……だっしゅつ?」
脱出の事を全く考えていなかった渡辺はピンと来ていない様子だ。
長沢「なんとかねるか米に会えればね」
渡辺「ねるちゃんと合流出来たら”ほとけーず”だね!」
長沢「!」
長沢はおそるべき感覚で人の気配を察知する。
渡辺の前に手を広げ、歩を止めさせる。
長沢「梨加ちゃん。止まって」
渡辺「!?」
渡辺の顔に緊張が走る。
何かが起きていることに気づき、ロケットランチャーを構え警戒する。
??「!!」
斜め正面から歩いて来る人物は二人に気づき、歩みを止める。
長沢「理佐!」
渡邉「!!菜々香!梨加ちゃん!」
渡辺「…………!!」
渡邉は二人の名前を呼び応える。
渡辺は何かに気づき、今度は駆け寄ろうとする長沢を止める。
渡辺「菜々香ちゃん待ってッ!!!!!!」
長沢「!?」
急にものすごい声量で叫んだことに驚く。
渡邉は戦闘の目に切り替わり、スナイパーライフルを長沢へ向ける。
直後に銃声が鳴り響き、長沢の身体を数メートル吹っ飛ばした。
渡辺「菜々香ォッ!!?」
先行していた長沢が自分の後ろまで飛ばされた。
背を見せるわけにはいかず長沢に駆け寄るのを我慢して、ロケットランチャーを向ける。
渡辺「……!!……??」
渡辺は何も言わないが、その大きな瞳は饒舌に語っている。
目の前にいる人が誰だか判らない。
理佐ではないのに、理佐の顔をしている。
長沢が間違えるほど本人にしか見えない。
島には漢字欅の21人しかいないはずなのに。
分校で澤部が言っていたことを思い出す。
澤部『転校生がいまーす。仲良くしてヤってくれよ~』
渡辺(そうだ!忘れてた――)
お得意の忘却で転校生の存在を忘れていた。
どうして私たちを殺すのか。
どうしてそんな顔をしているのか。
どうして、どうして?どうして。どうして!
渡辺「あなた、誰!?」
でも話は面白いからOKです
渡邉「私は渡邉です」
あくまで理佐を押し通すつもりなのか。
それにしては理佐ではないと言っているような口ぶりだ。
それともすでに勝った気でいるから余裕なのか。
転校生がどこの誰かなんて関係ない。
渡辺「お前が……みんなを……」
渡邉「ん?何?」
あまりの小声に聞き取れず本気で聞き返す。
渡辺「お前が殺ったんだろォ!!!!!!!」
渡邉「っ――」
一気に怒りのボルテージを120%へ限界突破させ、ロケットランチャー発射させる。
渡邉は咄嗟に伏せると、弾頭が木にぶつかり爆発する。
一面に爆炎が舞う中、伏せた状態のままスナイパーライフルを構える。
爆煙が晴れると、渡辺と撃ち殺したはずの長沢が消えていた。
渡邉(消えた――!?)
代わりに一冊の分厚い雑誌が落ちており、表紙の目玉が異常に巨大な少女の脳天に穴が開いている。
渡邉(少女漫画雑誌『リボン』!?これで弾丸を――)
後ろから風を切る音が聞こえ、とっさにライフルで頭を守る。
ガッシャンとヌンチャクがライフルに付属しているスコープに直撃しガラスが割れた。
スコープで防いでいなかったら、頭をカチ割られていただろう。
長沢「コロス」
渡邉「!」
殺意を込めたヌンチャクをやたらめったら振り回してくる。
渡邉はライフルを盾にして防ぐも、持っている手が痺れる。
渡邉(こいつ!!!なんなんだこのスピードは!!?)
長沢「フン!」
ライフルを盾に持つ左手の小指を殴られ、小枝のように骨折した。
渡邉「ぐッッ!!」
防御に隙が生じ、ヌンチャクを叩き込まれる。
ガッと右前頭部に直撃し、額から流血しよろめく。
長沢は続けざまにヌンチャクで渾身の一撃を振りかざす。
顔を捕らえたと思ったら紙一重でかわされカウンターの裏拳を顎にもらう。
長沢「ッ……!」
脳を揺らされ、一時後退する。
ライフルを長沢へ構えようとすると背後から殺気を感じた。
渡辺「アアア!!!」
後頭部を殴ろうとロケットランチャーを振り下ろす。
渡辺「んっ!?」
突如渡邉が消えて地面を殴ってしまう。
すでに左背後に回られており、振り返ると右拳を頬にもらった。
渡辺「ん゙ッ!?」
口の端が切れ口元を抑えて二三歩退く。
生死をかけた仕合の第1Qが終わり一息つく。
渡邉「やるじゃん。正直舐めてたよ」
渡辺「お前……!!!」
長沢「この――」
渡邉は肉弾戦ならスナイパーライフルは邪魔だと判断し茂みに捨てる。
渡辺「えっ!?」
長沢「なんで……」
雲から月が顔を出し渡邉を照らす。
今宵は満月であり、街灯がなくとも島に十分な明るさをもたらす。
渡邉「いいこと教えてあげる。私は、満月の夜は普通の日より10倍の戦闘力になる!」
長沢「十……倍……」
渡辺「!!??」
10倍の戦闘力になるなら銃を持った状態より素手の方が本領発揮できるから捨てたのだ。
長沢(即死できる銃より確実に殺しに来れる、とうことか)
渡邉「行くぞ」
指を鳴らし潰しに来るような威圧を見せ第2Qが始まる。
長沢は瞬時に間合いを詰めヌンチャクを大降りする。
軌道を読みまた紙一重でかわされ、振り終えたモノを素早く掴まれる。
長沢「何!」
敵同士なのに一つのヌンチャクを仲良く一方ずつ持っている。
力づくで引っ張るも渡邉も同じ力で引き相殺されて動かない。
渡辺「菜々香ちゃああぁあんッ!!」
渡辺は背後から拳を繰り出す。
渡邉は握っているヌンチャクの力をさらに強め、長沢もろとも手繰り寄せる。
長沢「!!」
そのまましゃがむと渡辺の拳は長沢の顔面に直撃した。
渡辺「ンなっ!?」
長沢「ぶへっ」
仲間を殴った罪悪感で隙だらけになってしまい腹に蹴りを叩きこまれる。
渡辺「カハ――」
息が止まりそのまま後ろへ飛ばされた。
長沢「梨加ちゃんッ!!」
渡邉「今は私と菜々香の1on1。また菜々香を殴りたいなら来な」
渡辺(あ、あいつに襲いかかったらまた菜々香ちゃんを殴っちゃうかもしれない……!!)
この場を支配しているのは完全に渡邉だった。
10倍の戦闘力は伊達ではなく、二対一であっても戦局を有利にしていた。
渡邉「ルーザールーズ」
渡辺長沢「??」
渡邉「本当はハンカチなんだけど、このヌンチャクをハンカチに見立てて放した方が負け」
長沢は瞳に火花が散り、訳が分からないが勝負を承諾する。
長沢「ハンケチ。放さない」
互いに左手のヌンチャクを握り直す。
先手は長沢の右拳連続ラッシュから始まる。
それを掌でドリブルの要領で全て叩き落とされた。
渡辺(菜々香ちゃんの連続パンチ見えないほど速いのに……それをみんな防いでるう!?)
後手渡邉は連続パンチというディフェンスをかいくぐり放物線を描く拳を繰り出す。
拳は前頭部に着弾し、直接脳を揺さぶられる。
長沢「ぐっ、ンま……?」
渡辺「ああっ!?」
渡邉「ハンドリング」
渡邉はヌンチャクを握るのを止め、手の甲に乗せ始めた。
不安定にはならず何故だか安定していた。
長沢「離すなよ」
得物を引くとカウンターの後ろ回し蹴りを側頭部に喰らった。
尻もちをつくもヌンチャックは離さない。
追撃の踵落としが降って来たがギリギリでかわし立ち直した。
長沢「なるほど……」
――バスケのハンドリングの要領でヌンチャクを巧く扱ってる。なら私も。
長沢もマネをして得物を手の甲に乗せる。
渡邉「へえ。そういえば菜々香もバスケやってたんだよね」
長沢(”も”?)
渡邉「でも――」
裏拳が炸裂し、再び尻もちをつく。
倒れてる長沢を見下ろし続きを言う。
渡邉「補欠。だったんだっけ?」
やけに”補欠”を強調して言われ挑発される。
長沢「うん」
そんな挑発などどこ吹く風と気にも留めない。
それが挑発だったのかなど知らない様子だ。
長沢は先程より速度が上がった拳を顔面へ叩き込む。
渡邉(速い――!!)
渡辺「おおっ!!」
渡邉は倒れまいと得物を握り引く。
引かれる力を利用してレイアップのような昇竜拳を顎に打ち込み初めて尻もちをつかせた。
渡辺「やったっ!!」
続けて倒れているところへサッカーボールキックを繰り出す。
長沢「!」
蹴りは躱され、立ち上がられる。
渡邉「…………」
長沢「……」
二人とも対峙したまま動かないでいる。
長沢(なんとなく解った。この勝負先に動いた方が負ける)
拳を握りしめ力を溜め、腰の位置に備える。
渡邉の口元が吊り上がり、ヌンチャクを軽く引く。
長沢は溜めていた拳を繰り出す。
渡邉「スチール」
パシィと長沢の音速の拳を手で受け捕った。
渡辺「そんなっ!?」
長沢「……バカな」
戦意を失いかけ無防備のところへフリースロー一撃必殺の”3点拳”を叩きこまれ彼方まで吹っ飛ばされた。
渡邉の対戦相手は消え、一人ヌンチャクを持つ。
渡邉「私の勝ち」
ぐるぐると得物を振り回して、長沢の元へ歩み寄る。
渡邉「とどめだ」
うつ伏せで倒れてる長沢の後ろから首にヌンチャクを回し締め上げる。
長沢「う、ご、ぉ……っ!!!!」
エビ反りになり呼吸ができず、頸動脈が浮き出て死にそうになる。
渡辺(ああ…………!!!助けようにもロケットランチャーは使えないし、また菜々香ちゃんを楯にされちゃう!?)
渡邉「ハッハッハッ!!!」
長沢「あ゙ー……ぐっ!!!」
首を絞められている状態から近くにあった左手の側面(小指球)に噛みつく。
渡邉「い゙ッ!?」
締め上げるのを止めて一歩下がり後頭部へ3点拳を叩き込む。
再び吹っ飛ばし今度こそ倒した。
長沢「…………」
気絶したのか死んだのか指一つ動かない。
渡邉「痛っ……!」
左手を見ると小指の付け根からくるぶしの間の小指球が噛み千切られて血が溢れ出る。
渡辺「……菜々香、ちゃん……!!!!!」
瞳から殺意がこぼれ落ちている渡辺が前へ出る。
渡辺「お前は私が倒す!!!!!」
渡邉「かかって来いよッ!渡辺梨加ァ!!!」
休憩なしに第3Qが始まる。
渡邉(厄介な菜々香はもう赤ゲージ状態だ。案外大したことはなかったな。パワーだけの梨加なんて私の敵じゃあない)
渡辺(力だけなら私の方が上!でも、総合的な戦闘力は圧倒的にあっちの方が――)
渡邉(――って、その饒舌な眼差しで伝わってくるんですけど)
渡辺「よくも菜々香ちゃんをお゙ッ!!」
渡邉「!!」
単純な張り手に、渡邉の体は宙を飛び後方の木に叩きつけられる。
渡邉(分かってたのに、このパワー……!!)
渡辺「うわあああぁあああっ!!」
叫びながら突進で追撃すると、かわされてドスンと木に衝突する。
百枚単位で葉がひらひらと落ちて来る。
次に連続パンチを繰り出し一発ずつの威力が強く風が伴う。
その拳の嵐は舞う葉のように全て躱される。
渡邉「ハイ!!」
渡辺の腹を殴り、頭を蹴り飛ばした。
渡辺「ぎゃふっ――!!」
倒されるも立ち上がり、ボクシングスタイルで口元に両手を持っていき突っ込む。
渡辺「うわああああ!!!」
ブンブン振り回す拳は全然当たらない。
パワー型にありがちなスピードが殺されてことごとく躱されていた。
渡辺(な、なんで当たらないの!?こんなに打ってるのに――)
ゴール下でシュートが外れ続けるように苛立ちと焦りを覚える。
さらに力を込めた大振りの拳を繰り出すも、カウンターの右拳を顔にもらう。
ぐらつくがなんとか持ち堪え距離を置く。
渡邉(タフだな。パワーS、防御A、スピードCといったところか)
渡辺(菜々香ちゃんの噛みつき攻撃でこいつの左手は使えないはず!だから左側から攻撃すればいける!!)
渡邉(だから~ちらちら手負いの左手見つめてんのバレバレなんですけど)
左側から攻めて来る渡辺を受け入れ、渾身の右ストレートを解き放つ。
渾身の一撃が渡辺の顔面を捕らえた。
渡邉(決まった――)
渡辺「ん゙ん゙!!!」
殴られながらも右拳をがっしり掴む。
渡邉「うゎ!?」
渡辺「やぁあああああぁあああああああああ!!!」
そのまま勢いよく遠心力でぐるぐる回してから手を離す。
渡邉は腰から木に衝突しダメージを負った。
畳みかけるように倒れてる渡邉へ駆け寄り両手鉄槌を振り下ろす。
それをかわされ、倒れてる状態から腹を蹴られてれよろつく。
渡辺「ちょぅ!?」
渡邉は素早く起き上がると同時にロケットパンチを顔面へ打ち込む。
さらに、パンチとキックの連打を繰り出す。
渡辺「ん・ん・んんん……!!!!」
両腕を前に出し防御するも、防ぎきれず顔や頭を打たれる。
渡邉「ほらほらァどうしたのぉ!私を倒すんじゃなかったのっ?」
渡辺「わ―ッ!!!!」
パワーを込めた拳は簡単にかわされ、カウンターの上段回し蹴りを頭部にもらう。
ゆっくり体が傾きダウンした。
渡辺(つ、強すぎる……!!このままじゃ、殺される――っ)
一般女子の10倍を誇る戦闘力を前にパワーだけでは敵わない理解した。
渡邉「さてと――」
とどめを刺しに近づいて来る。
成す術もなく諦めかけた時、渡邉の隣にある人物が立っていた。
渡邉「え!!!」
全く気配なく至近距離まで近寄られ驚いた顔へ拳を叩き込まれた。
渡邉「ぶは――」
渡邉を鼻血を噴きながら後退する。
渡辺「なゝこ、ちゃ――!」
長沢「お腹すいた」
渡邉の肉を食べてさらに食欲が湧いて来た。
渡邉(こいつ!!!気を失ってたと思ったら、私の肉を食べて眠って体力を回復していたのか!!!)
長沢「いただきます」
食べ物を前にして挨拶をする。
渡邉「ハッ、終わりにしてやるよ!!」
最後の第4Q開始のブザーが頭に鳴り響く。
体力は渡辺は赤ゲージまで減らされ瀕死の状態で、長沢は黄色ゲージに回復してた。
対する渡邉はまだ半分近くの緑ゲージだった。
渡邉「うぉお……ッ!!」
互いの拳がすれ違いそのままクロスカウンターが決まる。
長沢は頬に当たる敵の拳に噛みつく。
渡邉は即座に指を引っ込めたがすでに遅かった。
右手の小指が根元から食いちぎりられて血が噴き出している。
渡邉(カニバリズム!!!?食い殺される――)
長沢は味わいながら喉に通し回復すると動きが速くなり今度は直接嚙みに行く。
渡邉「えやぁ!!」
迫り来る口をかわしつつ、その顎を膝で蹴り上げた。
長沢「……!!」
長沢は顎に当たった脚を掴み、太ももへ齧りつく。
渡邉「ぅんぎゃーッ!!!!」
太ももを抑えて屈む渡邉の右耳を一瞬で噛み千切る。
渡邉「んんミミガー!!??」
食い殺されると思い一先ず距離を置く。
渡邉(く、狂ってる!?サイコパスか――?こんなヤツがいたなんて……!)
長沢「お腹空いた……!」
肉を頬張りながら、食いしん坊の一つ覚えのように言う。
攻撃すればを食べられので、攻めに躊躇いが生じていた。
渡邉(こうなったら仕方がない!!!)
なりふり構ってられず、茂みに捨てたスナイパーライフルを取りに走る。
噛まれた太もものせいで最高速度が出せず、逃亡するふくらはぎを食われた。
渡邉「んぎィィイイイイ!!」
長沢は先回りしてスナイパーライフルを拾いに行く。
渡邉「待てッ!!!!」
それに気づいて追うように戻るも遅かった。
長沢はライフルを手に入れると振り返り渡邉へ銃口を向ける。
渡邉「撃たせるかァ!!」
至近距離まで迫り射程圏外に踏み込む。
ディフェンスが成功した、かに見えたが銃口が空を向いている。
長沢はライフルを46度の角度で打ち放つ。
渡邉(シュート!?どこに――)
スナイパーライフルは綺麗な放物線を描いて、渡辺というゴールに吸い込まれ決まった。
渡邉「この私が……、打たれ――!?」
初めから渡辺に渡すために、誘き寄せられたのだ。
倒れていた渡辺が起き上がっており、ライフルを受け取ると渡邉へ向ける。
渡辺「撃つ!!!!!」
長沢「撃て――っ!!」
狙いを理佐と同じ顔を持つ憎き転校生へ定め、力強く引き金を絞り轟音を周囲一体に響かせる。
渡邉「…………」
渡辺「――」
長沢「……?」
渡邉は倒れずに仁王立ちして口角を上げていた。
長沢には撃った渡辺の近くで爆発が起こったように見えた。
渡辺「ぎゃあぁあああぁああああああああああああああぁぁああああああああ!!!!!!!」
長沢「…………え」
暴発した銃の破片が渡辺の顔、首、手と主に上半身に突き刺さり致命傷を与えていた。
血まみれになる渡辺は激痛に叫ばずにはいられなかった。
事態を理解することができないでいる長沢はただ立ち尽くしていた。
渡邉「最初に銃が通じない時点で、暴発するようにしたんだよ」
10倍の戦闘力以上は頭脳も活性化させ追い込まれたかに見せて二人の裏をかいていた。
渡辺「い゙だぁああああああああああああああああああぁぁあああい!!!!!!!!」
長沢「!!!梨ィ加ァアアアあアああああああぁあああアあぁあああアあア!!!!!!」
長沢は苦しんでいる渡辺の元へ駆け寄る。
顔は焼け焦げ金属の破片が突き刺さり、手が滅茶苦茶になっている。
渡辺「ン目ぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!見えなぁあああああああああああああぁああああぁああい!!!!」
長沢「梨加ちゃああああああああああああぁあああぁああああああ――……!!!!」
渡邉は悠々とロケットランチャーに弾を装填し、二人に向けて構える。
渡邉「これでも喰らえ」
長沢「ンゴ!!!?」
発射された弾頭は長沢の口の中に吸い込まれ大爆発する。
空腹だった長沢菜々香は腸が破裂するほどのごちそうを食らい、身を寄せていた渡辺梨加も巻き添えを食う。
ロケットランチャーがブザービーターとなり仕合は終了する。
二人の肉片は辺りに散らばり、もはやどちらの物だったか判らなくなる。
渡邉「ふう……」
要注意人物と思っていた長沢菜々香と渡辺梨加はどちらも想像以上の力を出し、想定外のダメージを受けた。
満月の夜でなければ危なかったと思う。
空を仰ぎ、真上に来た月を見て呟く。
渡邉「あと半分」
夜と残りのメンバー数の意味が込められていた。
暴発したスナイパーライフルを回収し、その場を後にする。
安置で横になり、月明かりを浴びて傷と体力を10倍の速さで回復させる。
後半へ続く
シリアスなのにたまに吹く
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コメント
名無しのまとめラボ 2018年9月2日 22:31 ID: E5MDE4NDA
面白い
理佐は転校生っぽいしガチで殺してるのは平手だけか
織田鈴本志田あたりの役回りも気になる
名無しのまとめラボ 2018年9月3日 0:08 ID: AwNTMwNTY
なーこちゃんがんばった😭
名無しのまとめラボ 2018年9月3日 20:58 ID: MyNDEyMDM
管理人さん、後編早く早くー
名無しのまとめラボ 2018年9月30日 21:36 ID: EzNTkxMDI
こんなん美穂やん
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